第一話
黒瀬圭吾18歳。男子。
現在、乙女ゲームにどっぷりハマり中。
何故、健全なる男子高校生の俺が乙女ゲームなんざにハマってしまったのかは、遡る事一週間前になる。
「お兄ちゃん!」
突然部屋に入って来るや否や俺を兄と呼ぶこの娘は、まぁ俺の妹であるわけだが、何やら鬼の形相でこちらを睨んでいる。
悪い事をした覚えは二三あるが、反省はしていないので軽くスルーしてやる。
「ちょっと聞いてるの?!」
ガヅッ
何か固いものの角で頭を殴られ、やれやれと思いながら面倒くさそうに俺は口を開いた。
「お前のアイスを勝手に食べたのは、お前が俺のプリンを勝手に食べた代償だぞ。」
「は?違うわよ、これ!こっち!」
妹がブンブン振り回しているそれは、先ほど俺の頭を殴るのに使用した武器であろう。
どうら、DVD
かゲームのケースの様だ。
よくみると、ケースが真ん中からパッキリ割れている。
「さっき玄関にあったカバン踏んづけたのお兄ちゃんでしょ!これ今日買ってきたばかりなのにー!!」
確かに、先ほど帰宅した際に足元でパキっと音がしたようなしなかったような。
ふーんと軽く聞き流す素振りでDVD
の中身を確認する。ディスク自体は無事の様だ。
「ディスクは無事だ。良かったな。」
「良くなーーーい!!パッケージにどれだけの価値があるのか分からないわけ?!」
「わからんな。再生できれば問題ねぇじゃん。」
ガヅッ
またしても頭に衝撃。
大切なもんじゃねぇーのかよ…と頭の中で突っ込みを入れつつ、なんとなく妹の意図が読めた気がした。
「新しいの、買ってきて。」
…やはり。
兄妹喧嘩から警察沙汰には発展させたくない。
俺は潔く外出の支度をし、家を後にした。
******
「えーと、『学園☆王子様』…あった」
あなたとのドキドキ学園ロマンス☆
と、サブタイトルを頭の中で音読したところで胃がキリキリした。
更にDVD
ではなくPC
ゲームだったらしく、想像していた金額よりだいぶ跳ね上がってしまった事に頭が重くなる。
「はぁ…」
店を後にし、安堵のというより、泥々したものを吐き出すように溜め息を吐いた。
帰宅し妹に買ってきたゲームを手渡すと、『壊れたやつお兄ちゃんにあげる』と言い残し、そそくさと自分の部屋に戻って行った。
俺の部屋に残った、壊れたパッケージと一枚のディスク。
それが、こいつと俺の出会いであった。
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